パフラヴァーニーレスリングについて

パフラヴァーニーレスリングについて

起源

パフラヴァーニーは、イランを中心にユーラシア大陸中央部に広がるレスリングと似た伝統遊戯、あるいは組技の格闘技である。しかし、非常に興味深いことに、パフラヴァーニーには、レスリングだけでなく、レスリング以外の格闘技のテクニックや柔軟体操、筋力トレーニングの方法が認められる。また、試合中には、打楽器・歌による壮大な音楽も演奏される。その起源は古代ペルシャにまでさかのぼり、神話の英雄たちが戦いのために練習していたと言われているが、実際のところ、パフラヴァーニーは戦士を訓練するために用いられていたようである。なお、パフラヴァーニーの語源となっている「パフラヴァーン」の用語はペルシャ語で「勇者・英雄」を指す言語であり、この競技がいかに古代ペルシャで重要であったかがよく分かる。

ルール

2017年9月に開催されたアジアインドアゲームズではベルトレスリングのカテゴリーの1つとして行われたが、ルールはベルトレスリングとは大きく違う。ただし、試合で着用する専用のズボン・ベルトはいずれも掴むことができ、パフラヴァーニーは我々が研究するベルトレスリング、モンゴル相撲、角力などといった「力比べ」を旨とする組技系民族格闘技に属すると言える。

【主なルール】

試合時間/3分×2ピリオド(ピリオド間の休憩は30秒)

ユニフォーム/レスリングのシングレットの上にベルトが付いた膝下丈ズボンを着用する。

階級(シニアの部)/60kg・70kg・80kg・90kg・100kg・100kg超級の6階級

勝敗について/基本的にはフリースタイルレスリングのルールが適用されるが、前述のとおり着用したズボン・ベルトを掴むことができることが特徴。フォールもしくは得点差による判定で勝敗が決まる。

互いに胸を合わせた状態から、レフェリーのホイッスルで試合開始と同時に離れて相手との距離をとりスタートする。両肩や背中がマットに着く、もしくは、ディフェンスしている選手がマットに片方の肘を着いた状態でデンジャーポジション(身体が90度以上傾く)に陥った場合フォールとなるが、例えばローリングや反り投げを仕掛けた側の肩が先にマットにつくとフォール負けとなる。消極的姿勢による警告(コーション)を3回告げられた時点で負けとなる。

デンジャーポジション以外のテイクダウンは2点加点、場外への投げが成功し相手がデンジャーポジションでも2点加点。投げを失敗しバックを取られたら相手に1点加点される。スタンドの場外逃避は相手に1点加点だが、グラウンドでの場外逃避はコーション+相手に2点加点となる。

同点の場合は最も価値の高い投げで得点した選手、コーションが少ない選手、最後に得点した選手の順番で勝ちとなる。

フォールの場合、またテクニカルフォール(10点差がついた)の場合はその時点で試合は終了となる。

パッシブ(消極的姿勢)について/レフェリーによる1回目のホイッスル=試合を止めて口頭でアテンション(注意) 2回目=警告(コーション)+相手選手に1点加点、万歳の体勢を取り相手に左手でズボンの裾・右手でズボンの腰を掴まれた状態でレフェリーのホイッスルの合図でスタートされる 3回目:2回目と同様 4回目:コーション3回となり失格、負けとなる。

まとめ(所長)

パフラヴァーニーはベルトレスリング同様、歴史は非常に長いが、アジア・オリンピック評議会が主催するような国際規模の競技大会への参加はここ数年のことである。それゆえ、日本でもこの競技の存在を知る人は非常に少ない。ただ、日本在住のイラン人の方に話を聞くと、やはりパフラヴァーニーの存在は皆知っているので、ペルシャ文化の影響の色濃い地域では馴染みのある民族格闘技であると考えられる。

フリースタイルレスリングに近いが前述した通りのルールであるため、グラウンドではローリングなどが有効ではなく、ほぼトルコ刈りのような技になる。ズボンをつかんで相手をひっくり返すという点でトルコのヤールギュレシュ(オイルレスリング)に似ているが、パフラヴァーニーの場合、草原などの屋外ではなく古くからズルハネ(イランの伝統的肉体鍛錬施設)内で行われていたという独自性が面白い。ベルト・ズボンの使い方についてはまだまだ研究の余地が大いにあるし、他の着衣タイプのレスリング競技にも応用がきくはずだ。

また、ご存知の通りイランはレスリング大国であり、多くのレスリング世界チャンピオンを排出しているが、イランのレスリングチャンピオンはパフラヴァーニーのチャンピオンであることが多く、その技術のルーツはパフラヴァーニーであることは簡単に想像できる。パフラヴァーニーの研究を進めることにより、イランレスリングの根幹部分にたどり着くことができるのでは無いかと非常に期待している。

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